開演直前の緊張感が店主はとても好きだ。
ざわめく客席(ざわめく程居ない時もあるが。)、パッァ.とスポットライトが燈る。
スゥーっと止む人の声、のそのそとステージにあがる高揚感。
何かが起こるような、そんな気持ち。
やはり、とても好きだ。
お店でレコードを流しているとそういった瞬間が幾度も訪れる。
ある程度ざわついた客席。レコードが終わる。
No Room For Squaresはターンテーブルが一つしかないので、次のレコードを準備していても30秒ほどは無音の状態になる。
新たなレコードの針を落とす。すぐに音楽は始まらない。
店内の状況をよく観察しながら、右手でボリュームの正解を探る。
店内の緊張感が少しだけ高まる。
やっと、一音目が鳴る。それはドラムのバスなのか、ピアノの和音なのか、はたまた管楽器のソロなのか…。
一瞬数人の視線がこちらに向けられる。
ゆっくりとジャケットを表に出す。
各々の目にはそのジャケットがありありと映る。
自身の思い描いたレコードとの答え合わせをする目。
未知の何かを見つけた時の高揚感が満ち溢れた目。
各々の目の色がこちらに反射する。
その時の高揚感は、ライブ前のあの高揚感によく似ている。気がする。
ある人にとっては、今日最後に聴くレコードかもしれない。
ある人にとっては、疲れた一日を癒す最初のレコードかもしれない。
そんな、各々の想いには関係なく、皆一様に二十数分同じレコードを聴き続ける。
文字にしてみると、レコードを変える仕事は、中々大変なものなのかもしれない。
そんな大それたものでは無いと思っていたのだが…。
まぁ、自身の仕事を卑下するよりは誇りに思った方が、幾分かマシだろうから、良しとしよう。
そんな事をボーっと考えているうちにレコードがもう終わる。
次のレコードの予定は未定だ。
店主
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